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1 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:36:35 ID:aPWQeKhLnJ
クロとはるみが絡んだら…そんなシチュエーションを読みたくて書いてみました。読みも書きもあまりしないので拙いばかりかもしれませんが、せっかく書いてみたのであげてみます。
なおはるみの言動はあたいなあの子に寄ってるかもしれません。
引用元:http://kirarabbs.com/index.cgi?read=2571&ukey=0

2 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:38:01 ID:aPWQeKhLnJ
―旅人には目的がありました。
その旅には当ても道標も灯りもありませんでしたが、
それでも歩くほかなかったのです。
さて、当たるの犬か棒かそれとも…―


真っ青な青空には、時折孤独な雲がふわふわ浮いている。
太陽は天を目指して昇り、川は滾々と下っていた。
風もなく、暑くもなく、寒くもなく。
見通しの良い平原、遠くに見える山々。
なのにこの旅人ときたら、なんとも鬱屈な見た目であった。

「……飽きるくらいに平和だな。」

白昼に蝙蝠が人語で話した。
行先はまっすぐだろうに、フラフラと飛んで、無駄が多い。
まるで旅人にまとわりついているようだ。

「静かだね、本当に。」

棺を担いだ黒ずくめの者が返事をした。
背中のモノは重かろうに、コツコツと歩いて、隙が無い。
見た目は重いのに、どこか儚げでもある。

この二人、いや一人と一匹はクリエメイトと呼ばれる
「訂正すんな。あるいは千匹だ。」
「セン、急にどうしたの。」
「いや、ただの白昼夢だ。」
クリエメイトと呼ばれる、エトワリアに召喚された異世界人だ。
一見一人と一匹だが、実は一人と千匹なのだ。
しゃべっているやつ以外は周囲警戒担当だ。

「寝ぼけるくらいなら、棺に入って休んでいれば?」

元の世界でも山賊や野犬など危険な目に遭うことはあったが、
魔物という存在はセンに一層の緊張感をもたらしていた。

「魔物ってやつは、その生態は動物のそれだが、肉体とか攻撃性が独特でな。
慣れないうちは臆病なくらいでいいんだよ。ただまぁ、何匹かは戻してもいいか。
クロの方はどうだ、調子は。」

クロと呼ばれた旅人は実は女性で
「強調しないでいい。」
「は?お前も寝ぼけてんのか?」
「ごめん、急にイラっとして…」
女性で、自身にかけられた呪いを解くために旅をしている。

「私は大丈夫。呪いの進行もほとんどない。」
穏やかに、クロは答えた。
実際エトワリアに来てからというもの、
これといった事故や災難もなく、食べ物は量も味も文句のつけようがなかった。
そのうえキャンプ用品が充実していて、携帯性抜群の食器も買い足せた。
旅の道中にありながら、こんなにも充足するなどあり得るのだろうか。



3 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:38:37 ID:aPWQeKhLnJ
「里に留まって情報収集に徹するという手もあったんだぞ?
ましてやこっちに魔女がいるわけでもないんだ。
それとも何か、雰囲気になじまないとか言う気か?」
まるで息子を思うおかんのように、センはまくし立てた。

「センは居酒屋に入り浸りたいだけでしょ…
…なじまないというか、居場所じゃないというか……?」

ふと、太陽が陰った。
雲に隠れたかとクロは思い、見上げ、目を疑った。
音もなく、空から人が降りてきていた。

「ねぇ、セン。やっぱりここは天国だったのかな。さっきから眠たいし。」
「いや、これから召されるんじゃね?疲れてはいねーけど。」

その人は、クロの前にそっと降り立った。
翼もなく、頭のわっかもなかったが、
旅人達は天使だと思った。

\コンニチワ/

「え、と…」

意外にフランクだった。

「あ、これ、まつぼっくりさんに教わった挨拶ね。」

すげーフランクだった。



4 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:39:27 ID:aPWQeKhLnJ
赤い鎧を着た天使?がクロはこう尋ねた。

「葬儀屋さん、良いスパイスを知らない?」
「す、スパイス?」
「酸っぱい酢じゃないよ。」
「あ、はい。」

最初こそ畏れていたが、二人は次第に違和感を感じていた。
(なぁクロ、ここは異世界だ。何があっても不思議じゃない。)
(言いたいことはわかるよセン。多分そういう人種なんだ。)

目の前に人が降ってきたなんて、思い返せばこれで二度目だった。
もっとも、一回目は身内だったし、翼で飛ぶという、明白な原理もあった。
色々不可解だが、目の前のことは夢でも幻でもないのだ。多分。

「私はクロ。こっちはセン。二人で旅をしてるんだ。」
極力当たり障りのないように、クロはコミュニケーションを試みた。
「うちははるみ。クロとセンは旅をしている。」
赤い人は、ふーんと一瞬何かを考えた。
何を考えているのか、表情ではよく読み取れないが、
「流れの葬儀屋ってことね。」
「どういうこと?!」
やっぱりよくわからなかった。



5 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:40:12 ID:aPWQeKhLnJ
「で?はるみはなんでスパイスを探してるんだ?」
面倒くさくなったセンが逃げようとしたところ、
1対1の状況を避けたいクロに捕まれ、
仕方なく話を進めていた。

要約すると、
・カレーに入れるスパイスを安定的に供給するための販路を確保したい
・カレーとはすごくおいしいもの、つまり料理のことらしい
・はるみは人は人でも宇宙人らしい
・カレーは神

「宇宙人だから飛べるっていう発想が俺にはわからん。」
「セン、そこで食い下がらないでよ。話が進まないから。」
「うちもわかんないから大丈夫。」

こんな青空の下で、何故こんな問答をしているんだろう…
クロは早く切り上げたがっている。

「残念だけど、私たちは別の世界から召喚されてきた身なのでね。
どこに何があるかは答えられないよ。」
「そっかー。うちも土地勘ないから大変だよ。きららもランプも忙しいしね。」

…セン驚愕。
「は、お前まさかクリエメイトかよ!?」
「そうだよ。…蝙蝠がしゃべってる!?」
「おせぇ!!」

…クロ遠い目。
(話が進まない…)

太陽は天を過ぎようとしていた。



6 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:40:46 ID:aPWQeKhLnJ
「…まじかよ。」
「マジで。」
「天動説か!やっぱ偉いやつが唱える学説なんかアテになんねぇな!」
(センが酒なしですごい盛り上がってる…)

センの言った通り、この世界でも旅をしなきゃいけない理由はない。
いや、元の世界でも、いつ旅をやめてもいいようにはしていた。
そのための棺だった。
私が収まるための棺。
今の私が旅をしないということは、棺に入ることに等しいと思えた。
生きていたい。私は私でありたい。
そのために私は、魔女を追い、旅をするのだ。

(ぐぅ~~)
「はい、うちのおなかです。」
「その自己申告いるか?」
センとはるみの親睦が深まっている…
「ちょっとカレー食べてくる。二人は?」
「私たちは携帯食で済ますよ。」
「ふーん……じゃあちょっと待ってて。」
「待っててって…あ」

羽ばたく音もなく、派手な光もなく、大げさな動作もなく、
はるみは里の方へとかっとび、瞬く間に見えなくなってしまった。
この場にもはやはるみが居た痕跡はなく、
やはり、なんて現実味がないんだ、宇宙人てやつは。

「尋常じゃないな、アレは。」
「ねぇセン。」
「なんだ。」
「なんかはしゃいでる?」
「何言ってんだ、宇宙は浪漫だろ。」
(もしもし、はるみです)
「!?」
「どうしたクロ。」
(あと5分くらいで行くから。)
(はるみちゃ~ん、温めたわよー。)
(早い上にサラダ付きだ。すげぇ。)
(クロちゃんにもよろしくね。)
(ありがとうライネさん。あ、回線繋げっぱなしだった。切るね。)

「おい。おいどうしたクロ!」
「………あと5分で来るって。」
「何が!?」



7 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:41:22 ID:aPWQeKhLnJ
「へいおまち。」

はるみがオカモチを持って戻ってきた。
あたりにかぐわしい香りがあたりを漂う…

「マジで里まで行って戻ってきたのか…」
「もう色々超越してて可笑しくなってきたね。」
「え、お菓子食う?」
「え?」
「お菓子はないけどカレーはあるよ。一緒に食べよう。」
「あ、あぁ。」

オカモチから解き放たれたカレーはその香りでクロとセンの胃袋を大いに刺激した。
レタス、玉ねぎ、キャベツ、ニンジン、トマトの彩り豊かな生野菜のサラダには真っ白なフレンチドレッシングがかけられ、
目にも鮮やかな食卓が平原のど真ん中で展開されるのであった。

「クロ、こいつはやべぇぞ…」
「ああ、旅先でこんな香りをかがされては…」
「召し上がれ。」
「いただきます。…もぐ……!?」

まず第一に温かい。まるで作りたてのようだ。旅先ではそれだけでもありがたい。
そして具が豊富だ。ニンジン、ジャガイモ、ネギ、牛肉、
それらの味が複雑なスパイスでまとめ上げられ、
複雑な味わいを醸し、程よい辛味が胃袋をさらに刺激する。
そして白米。パンではなく白米。この食べ応えだ。
食べ進めるとほのかな甘みを感じられて、それが意外に辛さと合う。
添え物のサラダは、いや添え物などと恐れ多い。
これ一つでメインを張れるくらいに貴重で豪華な新鮮な野菜たちだ。
酸味のきいたドレッシングが憎らしい。
カレーの濃い味に染まった口をサラダでリセットしてまたカレー…
あぁ、自分たちはやはり明日には死ぬのではないだろうか…

「カレーに蝙蝠が超群がってる…やべぇ」

二人の食べっぷりに、はるみは若干引いていた。



8 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:44:45 ID:aPWQeKhLnJ
「ごちそうさまでした。ありがとうはるみ、すごくおいしかった。」
「どういたしまして。」
(『勇者のグルメ』に人気がある理由が少しはわかったよ。美味しいものには敵わない)

昼下がりもとうに過ぎて、日も傾こうかという頃になった。
はるみの表情は相変わらずよくわからなかったが、
どこか誇らしそうに見えた。
センは……まさか食い倒れるとは…。

「ねぇはるみ。スパイスのことなんだけど。」
「うん?」
「里の商人には掛け合ってみたかい?
たとえ取り扱いがなかったとしても、彼らの情報網は非常に幅広い。
なにかヒントがつかめるかもしれないよ。」
はるみはぽんと手を叩いた。
「コルクなら色々知ってそう。」
「つてがあるなら話は早そうだね。」
「うん。ありがとう。行ってみるね。」

オカモチに空いた皿を閉まって、はるみは里へと飛び立とうとした。
「…待って!」
「うん、待つよ。」
「………魔女は…」
こうフットワークが軽い彼女なら見聞きしたことは多いのではないか。
しかし、この世界で魔女の存在がどうあったとして、自分の行動は変わらないはずだ。
何を聞こうというのか、聞いてどうしようというのか。
無下にこれ以上彼女を待たせるのは悪い…

「いや悪くないし。」
「?!…心が読めるのかい?」
「ごめんね、お昼に使ったテレパシーの応用だよ。ちょっとだけだよ。」

……



9 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:45:24 ID:aPWQeKhLnJ
うーん、と唸って彼女はこう切り出した。
「命ってたくましいんだ。
何度も死に目に遭ってきた。ウィルス感染もそう。」
「ウィルス?」
「はやり病とか伝染病とか色々に呼ばれてるけど。」
「伝染病…」
「ヒトがヒトになるずっと前から、命は体を侵すウィルスと戦ってきた。」
「…天敵、なんだね。」
「でも、戦うだけじゃない。命はウィルスを取り込んだ。
命は体を作る設計図に、ウィルスの体の設計図を組み込んだんだ。
共存共栄、今うちがこういう体なのは、少しはウィルスのおかげ。」
「…。」
「その『呪い』とウィルスって、なんか似てる気がする。
克服すれば、その『呪い』はひょっとしてクロの一部になるんじゃないかな。」
「…恐ろしいことを言う。呪いと同化するだって!?
それじゃあ私は私じゃなくなってしまう!モーだってそれが嫌だから…!!」
「うん、負けたら『その個体』は最悪死ぬし、勝っても元には戻らないかも。」
「…!」
「クロは旅をするからクロなんでしょ?要約すると。」
「!(ちょっとと言いながらどこまで読んだんだコイツ)
………ああ、クロになったから旅をするんだ。」

黒く塗りつぶされた感情。
元に戻らない感傷。
苦しい発作とつらい症状。
否応なしに変わる環境。
人と交わり変わる心境。
それでも私は私でありたい。
私のままでありたい。

「その『呪い』、多分結構やべぇヤツだよ。精神汚染カマすやつはロクなのがいない。
弱気を見せるとよりひどくなるパターン。」
「ちょっとどころか結構読んでるじゃないか。…私は、逃げも隠れもしない。」
「そっか、じゃあ大丈夫。カレーも食べたしね。」
「カレーと呪いが繋がらないんだけど。」
「元気百倍。」
「百倍!?」
「…五倍かな?」
「かなり盛ってたね。」
「カレーだけに大盛り。」
「おお…。」



10 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:46:31 ID:aPWQeKhLnJ
「負けないで、クロ。命はたくましい。だいじょぶだ。」

じゃ、と言って、はるみは夕日を背に再び里へと飛んで行った。
カレーのにおいがまだ服にしみている。

「ずいぶん話し込んだな?げふっ…、異文化交流は楽しいだろ?」
「異文化交流自体はいつものことだけど、今回は突出してたかな。」

自らを冒す敵すらわが身として取り込む…
それが本当なら、命というのは実にたくましいと思う。
でも、現に心身を冒されている私に、
果たしてそれほどのたくましさは秘めているのだろうか…?

「お前さ、飯食ってるだろ?」
「唐突だね。そうだけど。」
「飯は他人の命だ。それ食って日々俺らは生きてんの。」
「特別じゃないってこと?」
「それができなくなった時が終わりの時ってことかもな。」

普通というのは、でも、実に難しいことだ。
それでも私はまだこうして生きてる。
ありがたいことだと思う。

「あーあしかし、もう行くも引くもできない時間だぞ?ここで野宿か?」
「そうだね、でも、火をおこすには木が少ないな…?」
「んん?里のほうから団体さんか?こんな時間に?」
「あれはバイクだね。先行してくるようだ。」
「バイクってぇとケイが乗ってるアレか。この世界にもあんのか。」



11 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:47:03 ID:aPWQeKhLnJ
ドライバーはしまりんだった。
以前彼女がソロキャンをしたときに同行させてもらったことがあった。
旅の道具の仕入れ先も彼女からの情報だ。
「あのクロさん。リンですから、私の名前。しまは苗字。」
聞けばこの先の湖で野クルと天文学部の合同で天体観測キャンプを行うという。
一人もいいけど、たまの団体行動も悪くないと、彼女ははにかんだ。
「なぁクロ、渡りに船だ。団体行動なら危険はかなり減るぞ。」
「みんなに聞かないとですけど、大丈夫でしょう。」
「セン、わかっていると思うけど」
「ガキには興味ねーよ。」

ほどなく皆と合流して、一晩の同行を許可してくれた。
皆で夕飯を作り、星を眺めて、寝て、朝には里へと戻るのだという。
わいわいはしゃぐ彼女ら。
こういう賑やかさの中に身を置くことになるとは思わなかった。
多分、呪われなかったとしても得難かったかもしれない。
「ところでクロさん、さっきから…」
リンが鼻をクンクンさせる。
「ああ、昼にカレーを食べたんだ。」
「あー…実は夕飯はカレーでして…」
「カレー…すごくおいしいものだね。」
「あ、やっぱりそれで通るんですね。ちなみに明日の朝は今晩の残りのカレーです。」
「大盛だね…カレーだけに。」
「はい?」
「…私も作るのを手伝うよ。今後の参考になりそうだし。」
「えぇ、ぜひ。」

今日はいつもと違った旅。
けれどこれもまた、私の旅のほんの一部。



12 名前きららBBSの名無しさん:2020/10/28 18:53:41 ID:aPWQeKhLnJ
以上です。書いてるうちに野クル目線で天体観測キャンプの内容を妄想し始めてキリがなくなりました。
星と旅に関するトリビア、旅とキャンプの相性について、もう二人連れがいること。きっと色々盛り上がったに違いありません。



13 名前阿東:2020/10/28 20:36:59 ID:sHkHOhjUov
読んでみました。

意外にもクロとはるみって合いますね・・・。


予想外すぎた組み合わせでも、すごくよかった
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きらび管理人